「釈迦の教えから密教に至る、仏教の全体的な流れを一冊の、しかも読みやすい本として示すことで、仏教を考える際の物差しとして使って頂きたいという思い」(100分de名著「大乗仏教」の「おわりに」より)で作られた、まさにその通りの本です。
教科書的に流れをなぞるだけではないとても勉強になる興味深い一冊。著者は原始仏教の研究者だそうですが、日本の大乗仏教をただ単に否定している本ではありません。
仏教や御朱印に少しでも興味のある方は是非読んだほうが良いと思われる本です。
別冊100分de名著 集中講義 大乗仏教 こうしてブッダの教えは変容した (教養・文化シリーズ)
- 作者: 佐々木閑
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2017/02/25
- メディア: ムック
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あとがき的な「おわりに」に共感しました。
少し長いですが、以下、抜粋です。
『・・・この世界は科学的な法則によって粛々と動いているけれど、その中で暮らす私たちは心の中の煩悩のせいで苦しみ続けなければならない。この状態から抜け出すためには、釈迦の教えのうち、現代の科学的世界観においても通用する部分を抽出して、それを自分の「生きる杖」にするということは全く当然のことであり、それ以外に自分の心を偽らずに生きる道はないということです。
(略)
そしてこのように考えていきますと、「釈迦の仏教」からは大きく逸脱したように見える大乗仏教の様々な教えにも、実は大きな意義があるということが理解できるようになります。釈迦の教えを丸ごと信仰するのではなく、今の自分にとって意味のある部分だけを抽出して拠り所とすることで救われるのならそれと同じことが大乗の教えについても言えるはずです。本書で紹介したように、同じ大乗とは言っても経典によって様々な世界観があり、それぞれに怪しげな点や信じがたい不自然さを含んでいます。今のわれわれが、それを心底信じるというのはたいへん難しいことです。しかし、そこには、生きる苦しみを消してくれる何らかの作用が含まれていることも事実なのですから、それを正しく見いだして、自分に合ったかたちで取り入れることができれば「釈迦の仏教」ではなしえないかたちでの救済が可能になるはずです。」
「仏教は長い歴史の中で、他の宗教には見られない極端な多様性を持つようになりました。独自性を失った芯のない宗教になっていったと見ることもできますが、別の見方をすれば、どのような状況にある人に対しても、なんらかの救済法を提示できる、万能性のある宗教になったとも言えます。宗教の存在価値が、私たちを生きる苦しみから救い出すことにあるとするなら、多様な顔を持つ大乗仏教もまた、その真理のエッセンスを取り出すことでいくらでも効能を発揮することができるはずです。このような視点で、大乗仏教の新たな価値を見いだすという作業は、私たち現代人にも大きな恩恵をもたらしてくれるものと確信しています』
(佐々木閑著 100分de名著「大乗仏教」おわりに より)